電球は100Vより110Vの方が経済的だといわれていますが、本当にそうなのでしょうか。
理論的にはその通りで、長持ちするのは110Vの方です。
しかし、そんなに単純なことなのでしょうか。
この話の主役は、家庭で最も馴染みのある、丸くて透明な電球(クリア型)と不透明な電球(シリカ型)の2種類の電球(白熱電球)です。
ここでは、白熱電球に100Vと110Vの2種類ある理由と、温暖化対策にもつながるその将来について、考えていきましょう。
そもそも100Vと110Vの「V」って何だろう?
100V、110Vの「V」とは「ボルト」、電圧のことです。
電圧というのは「電気の圧力」です。
電気の圧力といわれても、なかなか分かりにくいですから、水と水鉄砲の例で考えてみましょう。
水鉄砲はトリガーを引いてタンクに圧力をかけることで、中の水を遠くに飛ばす仕組みです。
そっと引くと手前に落ち、強く引くと遠くへ飛びます。
このとき、トリガーを通じて水にかかる力が水圧です。
電気の場合も同じです。
電球が光るためには、電気に圧力をかけて勢いをつけないと光ってくれません。
この圧力を電圧といい、その強さをはかる単位がボルト(V)なのです。
100Vの電球というのは、「100ボルトの電圧で基準の光を出すように作られた電球」という意味になります。
日本の電圧は「100V」と決まっている
日本では、電気は基本的に100Vで供給されることが決まっています。
日本中のどの家庭でも100Vです。
ただ、「基本的に」と書いたのには理由があります。
シャワーを浴びている時に台所で洗い物を始めると、水の勢いが減ることがありますね。
水道ほど目立ちませんが、電気でも似たようなことが地域単位で起きています。
つまり、あちこちの建物のその時々の電気の使い方が影響して、電圧は100Vを行ったり来たりしているのです。
また、電気には電線を伝わっている間に少しずつ電圧が下がるという性質があります。
ですから、変電所は遠くの家まで100Vの電圧が届けられるよう、少し高めの電圧で電気を送り出します。
地域的にも、変電所に近いところは高め、遠いところは低めと、多少の電圧の差が生じているのです。
そして、その変電所が送り出す高めの電圧の目安が「110V」なのです。
電球を選ぶ際に、このことを参考にすることができます。
100Vと110V・2種類の白熱電球が存在する理由
100Vの電球の寿命は約1,000時間です。
計算上では、電圧が5%高い105Vの状態で使い続けると、明るさが20%アップし、寿命は半分の500時間になります。
逆に、電圧が10%低い90%=90Vの状態で使い続けると、明るさは15%ダウンしますが、寿命が1,500時間から2,000時間に伸びてくれます。
白熱電球の節約のキーワードは、この「低い電圧」なのです。
100Vの電球を110Vの電球に置き換えて考えてみましょう。
110Vの90%は99V、約100Vですね。
そして、日本の平均電圧も100Vです。
つまり、100Vの電球を110Vのものに付け替えるということは、電圧を90Vに下げるのと同じ意味になるため、「暗くなるけど寿命が1.5から2倍に増えて経済的」になるのです。
この性質を使えば、それぞれ得意分野で活躍させることができます。
寿命は短いけど明るい100Vの電球は、細かい作業をする仕事場や変電所から遠い場所に向いています。
明るさは劣るけれど寿命の長い110Vの電球は、多少暗くてもいい常夜灯や、取り替えが面倒な高いところなどに向いています。
以前は一般家庭向きの電球の種類は多くありませんでした。
それぞれの特徴をうまく使い分けて生活していたのですね。
明るさが電気代に直結する白熱電球
100Vと110Vの電球には、もう一つ気になる違いがあります。
消費電力(ワット数:単位はW)です。
消費電力は電気代に直結する大切な数字です。
そして、明るさの目安にもなっています。
ここに「100V・60Wの電球」があるとしましょう。
白熱電球というのは、ガラスの中のフィラメントに電気を通し、フィラメントを燃やして(白熱化して)光らせる電球のことです。
100V・60Wの白熱電球とは、「この電球を60W分の明るさにするには、電圧が100V必要ですよ」ということを表しているのです。
フィラメントが「薪」だとすれば、電圧は薪を燃やすための「炎」です。
100Vの電球は薪の太さが細いので、炎の温度(電圧)が100(V)より高ければ、あっという間に燃え上がり、60W以上の明るさになってしまいます。
一方110Vの白熱電球は薪が太く、60Wの明るさにするには炎の温度(電圧)が110(V)必要ですが、日本では100(V)と決まっていてなかなか60Wには届きません。
明るさが規定の60Wを超えるということは、消費電力が上がること、つまり電気代が上がることです。
ですから、どんなに頑張っても60W分の光を出せない110Vの白熱電球は、電気代の面でも経済的なのです。
110V電球より経済的な「電球型蛍光灯」と「LEDランプ」
白熱電球には欠点ともいえる特性があります。
構造がシンプルであるために電圧の影響をより受けやすいことと、消費電力が高いことです。
電圧については先にお話しました。
消費電力が高いというのは、一番最初にできたのでこれが基準になっている、という意味です。
後発の電球が経済的なのは当たり前といえば当たり前の話ですね。
白熱電球にも経済的なものがあるのですが、ここでは全く別の仕組みで光る電球を2つご紹介しましょう。
・「電球型蛍光灯」
白熱電球より消費電力が少なくてすむ蛍光灯ですが、構造が複雑な分値段も10倍以上します。
ただし、消費電力が約半分なので、電気代も約半分で済みます。
また、寿命も長く、100Vの白熱電球約1,000時間に対して、電球型蛍光灯は約8,000時間にもなります。
あるデータでは「電球型蛍光灯1個を使った場合」と、「白熱電球を8個使った場合」の8,000時間後の総コストを比較すると、電球型蛍光灯は半分で済んだそうです。
その時どきの電気代に左右されるので一概に半分とはいえませんが、どちらにせよ、「節約」という意味で110Vの白熱電球がかなう相手ではありません。
・「LEDランプ」
2014年、青色発光ダイオード(LED)を開発した赤崎勇・天野浩・中村修二の三人の日本人学者にノーベル物理学賞が授与されました。
この発明で青・赤・緑の光の三原則がそろい、それまで不可能だった白い光を作ることができるようになったからです。
LEDは次世代照明の最有力候補ですが、蛍光灯型電球のさらに倍ほどもする、たいへん高価な電球です。
しかし、消費電力は白熱電球の約10分の1、寿命は40倍の40,000時間と、桁違いの性能を誇ります。
ただ、LEDランプひとつで白熱電球が30個以上買えることを考えると、いくらコストパフォーマンスがいいと分かっていても、買うにはなかなか勇気のいる電球といえるでしょう。
白熱電球は将来無くなってしまう?
地球温暖化やエネルギー問題の観点から、政府は企業に対して白熱電球の生産を徐々に中止するよう要請しています。
企業側もそれに応じて、一部の商品の生産を取り止め始めています。
白熱電球は姿を消してしまうのでしょうか。
答えはノーです。
研究開発が進めばいずれそうなるかもしれませんが、今のところ白熱電球には他の電球にはない特性と魅力があるのです。
(1)本来のものの色を出す能力が高い
自然の色に近い光なので、一番自然な色を出すことができるのです。
(2)すぐに点いて明るい
トイレのように滞在時間が短い場合、この早さは捨てがたいものがあります。
(3)低温に強い
気温が低いと、蛍光灯はちらついたり十分な明るさを出すことができません。
寒い場所で使うなら、白熱電球の方が安心して使えます。
(4)光そのものが魅力的
透明なクリア型はきらきらした華やかさを、不透明なシリカ型は暖かな雰囲気を演出するのが得意です。
どんなに交換が大変でも、現時点でランプやシャンデリアに向いているのはやっぱり白熱電球なのです。
(5)値段が安い。
蛍光灯型電球やLEDランプが安い値段で買えるようになるには、まだ当分かかりそうです。
白熱電球は、経済性以外の点ではとても優れた電球なのです。
特に、貧しい国では必要不可欠な電球であり、100Vと110Vの違いも当分は必要な知識であり続けるのではないでしょうか。
電球選びは適材適所で
110Vの電球は、100Vの電球に比べると間違いなく経済的です。
しかし、節電に走るあまり、暗くなりすぎて目が悪くなっても困ります。
また、暗いからといってもう一つ別の電灯を点けてしまえば、節約どころか、かえって電気代が高くなってしまいます。
電球の数は、少なければ少ないほど電気代がかかりません。
そして、節電の基本は、蛍光灯は例外ですが、やっぱりこまめに消すことです。
節約には色々なアプローチの仕方があるのです。
単に「長持ちするから」ではなく、トータルで「本当に電気代を節約できるのか」をよく考えて交換するよう、心掛けたいものです。