お手本や動画で見る、お布団からの起き上がり介助は、いとも簡単にやっているように見えますね。
しかし、教わって実際にやってみても、なかなか上手くいきません。
できるようになる前に、介助の現場に立つこともしばしばです。
何かを覚えるには時間がかかるものですが、もともと形を真似る行為はとても難しい作業なのです。
ここでは、ゆっくり考えながら上達への足がかりを探しましょう。
お布団からの起き上がり!介助方法で難しいところとは?
お布団からの起き上がりは、以下の工程で成り立っています。
(1)腕を胸の前で組み、膝を立てて横向きになる。
(2)手を添えて、上体を半分だけ起こす。
(3)真っ直ぐ上体を起こす。
この内(1)は、起き上がるための前準備です。
楽に起き上がるために必要な動作なので、丁寧に行う必要があります。
しかし、それほど大変な訳ではありません。
難しいのは、身体を起こす(2)と(3)の部分です。
しかし、お手本を見てもなかなか分かりにくく、教わってやってみても何となく違うこともあるでしょう。
そのような時には、1度自分の身体を使ってシミュレーションしてみてください。
もちろん、自分で自分は介助できません。
ここで探ってみたいのは、「人間はどうやって起き上がっているのか?」です。
自分がどうやって起きているのかが分かれば、介助に置き換えた時、相手がどうなっていれば良いのか、自分はどう補助すれば良いのかを、イメージし易くなります。
回り道のようですが、上達するスピードが違ってきますよ。
自分の起き上がり動作から介助のポイントを知る!
まずは、「どうやって自分は起き上がっているのか?」ということから考えてみましょう。
「お布団からどうやって起き上がりますか?」と問われて、すぐに答えられるでしょうか?
案外、何度か試してみた後に、「仰向けからそのまま上体を起こす」と答える方が多いのではないでしょうか。
それくらい、起き上がり動作は、普段意識していないもののひとつなのです。
もう少し細かく見てみると、人は起き上がる時、最初に肘をつき、次に手のひらで床を押して上体を起こしています。
逆に言うと、この動作が上手くできないので起き上がれなくなっているのです。
介護の世界では、この肘をついている状態を「肘立ち」と呼んでいます。
介助では、(2)の工程で相手に「片肘立ち」になってもらい、(3)で「床を押し」てもらえるようにサポートします。
つまり、ポイントは「肘立ち」と「床押し」なのです。
「半分起こす」「残りを起こす」ではなく、「肘立ちを手伝う」「床を押すのを手伝う」と考えるようにすれば、介助の方向性が定まるのではないでしょうか。
お布団からの起き上がり介助を実践する!まずは前準備編!
さて、ポイントが分かったところで、起き上がり介助を実践してみましょう。
前提条件として、介助される方は右利き、介助者はお布団の右サイドに座っていることにします。
利き腕を気にするのは、利き腕で肘をつく方が身体を楽に支えられるからです。
もし左利きだったり怪我や麻痺がある場合には、力の入る腕側で支えてくださいね。
【前準備その1】・横向きになってもらう
①左手は胸に、右手は身体から45°くらい離して床に置いてもらう。
②右手のひらは、肘立ちし易いように上向きにする。
③両膝を立て、右側に倒れてもらう。
この時、サポートが必要なら、左側の肩と腰に手を添えてゆっくり横に倒します。
【前準備その2】・座る位置を決める
①正座をする。
②相手に近寄り過ぎない、ほどほどの位置に座る。
身体から45°離した相手の右腕の隙間に、膝先で小さな正三角形を作る感じです。
少し斜めに座ることで体重移動がしやすくなり、次の肘立ちが楽になります。
お布団からの起き上がり介助を実践する!肘立ちと床押し編!
前準備ができたら、次はお布団から起き上がる動作です。
この時、相手の方にひと言声をかけることを心がけてください。
「これから肘立ちなので、肘を意識してくださいね。」
「次は、手のひらで床を押してくださいね。」
相手の方に少し意識してもらうだけで連帯感が生まれ、介助も楽になりますし、リハビリにもつながります。
また、慌てないことも大切です。
ひとつひとつ順を追っていけば、無理な姿勢になった時、楽に修正することができますよ。
【肘立ち】・身体を半分だけ起こす
まず、相手の身体をしっかりホールドします。
①左手を相手の首元から差し入れ、右の肩甲骨近辺に手を添える。
②右手は、相手の左の肩甲骨(中央寄り)に当てる。
③相手の身体を左肘に乗せるつもりで抱き寄せ、肘立ちの状態にする。
介護者は、前のめりの姿勢から、後ろに倒れるつもりで体重をかけ、正座に戻ります。
【床押し】
①相手の右手のひらを、床押ししやすいように下に向ける。
②その手のひらに乗せるように、相手の身体を自分に引き寄せて起こす。
手のひらをついているので少し前傾していますが、これで起き上がり完了です。
麻痺がある方向け!一気に起こす起き上がり介助
お布団からの起き上がり介助には、一気に身体を起こす方法もありますのでご紹介しましょう。
ポイントは、腕だけでなく肩も使って、しっかり相手の身体をホールドすることです。
【前準備その1】・定位置につく
①相手の左腕を胸に置く。
②相手の右腕は、ほんの少し離して(巻き込み防止)身体に沿わせる。
③介護者は、左膝を相手の右肩付近につけるようにする。
★実際には、自由になる方の腕側に座ってくださいね。
【前準備その2】・身体をホールドする
①相手の首から左肩に向けて、自分の左腕を差し入れる。
②左手を目いっぱい開いて、相手の肩甲骨辺りに当てる。
③相手の右腰の辺りに、自分の右手のひらをつくようにする。
【肘立ち】
・ついた右手に力を入れ、浮いたお尻を落とすように後ろに倒れながら、肘立ちの姿勢に持って行く。
【床押し】
①ポジション変更のために、相手の肘立ちの姿勢を保持しながら身体を離す。
②相手を左肩と腕全体で支え、右膝を立て、右手のひらを床につける。
③右手で床を押し、重心を右にずらしながら左膝を伸ばして身体を起こしていく。
(②)で左膝を肘立ちの肘に添える位置につきますと、(③)でお尻を持ち上げる動作=身体を起こす動作が楽になります。
また、肩で体重を支えると楽に受け止めることができますので、有効なポジションを探してみてくださいね。
手のひらを裏返す?知っておくと楽になる「古武術介護」
ところで、「古武術介護」はご存じですか?
古武術介護とは、日本の武術の身体のこなしを応用して、より少ない力で介助をしようとする介護術のことです。
武術らしく、人間の身体の仕組みや、相手や自分の体重(重力)を積極的に利用するのが大きな特徴です。
ここでは応用範囲の広い、「手のひらの向きを逆にするだけ」という、簡単な方法をご紹介しましょう。
例えば、人間の身体を支える時、普通は手のひらを自分側に向けて支えますね。
しかし、そうすると相手の重みで自然と肘が曲がり、腕以外にもたくさん力が必要になりがちです。
一方、古武術介護では、手のひらを外側に向けて伸ばします。
そうすると、身体がロックされて、少ない力で済むようになるのです。
「肘立ち」の、相手に腕を回す時の動作で応用してみましょう。
①少し肘を張って、手の甲を内側(自分の方)に向ける。
②肩甲骨を伸ばすようにしながら、相手の背中に腕を伸ばす。
③伸ばしきったら、手のひらを返す。
少し背中を丸めながら、肩甲骨の間を広げるのがコツです。
不思議なことに、こうやって身体に手を当てて支えると、力が効率良く伝わり、少ない力で済むようになるのです。
上手く使いこなせるようになれば、相手側の負担も少なくなり、自分の腰痛対策にもなります。
せっかくですので、お布団からの起き上がり介助と一緒に、「手のひら返し」も練習してみてはいかがでしょうか。
ゆっくり3段階介助で少し楽になろう!
単純にコツを積み上げていくよりは、ストーリーを理解してから細かいコツを学んだ方が、物事を早くマスターできるものです。
お布団からの起き上がり介助なら、「前準備」をしっかりして「肘立ち」の状態にし、さらに「床押し」ができる状態に持っていく、という流れがストーリーです。
そのストーリーに、コツを付け足していけば良いのです。
もし介助に行き詰まっているなら、まず寝転んで、シミュレーションから始めてみましょう。
きっと、気持ちも視点も変えてくれますよ。