皆さん、睡眠の健康への影響をご存知ですか?
「睡眠不足が続くとお肌の状態が悪いよね」、「睡眠がしっかりとれると朝から元気だよね」という程度の認識の方もいらっしゃると思います。
しかし、それだけではないのです。
睡眠は、疲労回復だけでなく、脳や体の修復、そしてメンテナンスまで行ってくれているのです。
そこで、今回は、質のよい睡眠が脳や体へもたらす効果などについてご紹介していきます。
睡眠中に脳や体はどんな働きをしている?
人間は、睡眠不足が続くと、脳や体に様々な悪影響がでてきます。
では、そもそも、睡眠中、脳や体ではどんなことが起こっているのでしょうか?
睡眠中に行われている、それぞれの働きについて見ていきましょう。
《脳》
人間の脳は、寝ている間、「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」を交互に繰り返す睡眠サイクルの中にいます。
浅いノンレム睡眠から深いノンレム睡眠、そしてレム睡眠へと移行するサイクルを、一晩に4、5回繰り返します。
約80%を占めるノンレム睡眠時は、脳を休ませ、成長ホルモンの分泌で体を修復するという働きをしています。
一方、レム睡眠時の脳は、起きている時以上に働いているといわれています。
起きている時にインプットされた情報から必要なものを抜き出し、記憶として脳に定着させる働きをしているのです。
《体》
ノンレム睡眠が「脳の睡眠」といわれるのに対し、レム睡眠は「体の睡眠」といわれます。
これは、レム睡眠時には、体の筋肉の緊張がほとんどなくなり、筋肉の疲労を回復してくれるからです。
一方で、ノンレム睡眠時にも、成長ホルモンの分泌により、細胞の修復や疲労回復をしてくれます。
全体的に、一晩の睡眠で、体全体のメンテナンスを行ってくれるのです。
このように、人間は寝ている間に、脳や体の疲労回復や細胞の修復などを行っています。
これには、いろいろなホルモンが関係していますが、その中でも特に重要なホルモンが3つあります。
それは、「成長ホルモン」と「メラトニン」、そして「コルチゾール」です。
次項では、これら3つのホルモンについて、それぞれ詳しく見ていきましょう。
成長ホルモンにはどんな修復効果がある?
成長ホルモンと聞くと、子どもの発育だけに関連するもの、という印象をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
もちろん、成長期の子どもの身長を伸ばす働きもありますが、脳や体のメンテナンスにも深く関係しています。
このホルモンは、寝始めてから最初の深いノンレム睡眠時に多く分泌されるため、その分泌には、質のよい睡眠が不可欠です。
では、この成長ホルモンには、どんな効果があるのでしょうか?
《細胞を修復》
成長ホルモンには、傷ついた細胞を修復したり、細胞分裂を促進し、新しい細胞を作りだす働きがあり、体を若々しく保つことができます。
また、「アンチエイジングホルモン」とも呼ばれ、肌の新陳代謝も促してくれるため、美肌になりたい方にはとても重要なホルモンです。
《免疫力の向上》
上記でご紹介したように、成長ホルモンには細胞を修復したり、細胞分裂を促す作用があります。
その結果、1つ1つの細胞の代謝が活発になり、免疫力も向上する効果があります。
《脂肪を分解》
成長ホルモンには脂肪分解作用があり、血中のコレステロール値を低下させる働きがあります。
そのため、成長ホルモンの分泌が減ると、中性脂肪や総コレステロール値が増加し、動脈硬化が進む原因になってしまいます。
その結果、心臓機能も低下し、心筋梗塞や狭心症の恐れも出てきます。
つまり、このような生活習慣病予防には、成長ホルモンの分泌も欠かせない要因の1つということです。
《骨や筋肉を強くする》
小児期や成長期には身長を伸ばす作用がありますが、大人になると、骨や筋肉を強くする働きがあります。
これにより、丈夫な体を保てるのです。
このように、睡眠中に分泌される成長ホルモンには様々な効果があります。
これらの効果により、日々の生活で傷ついた細胞の修復やメンテナンスなどを行ってくれています。
私たちが健康に生きていく上で、とても重要なホルモンの1つといえます。
「睡眠ホルモン」であるメラトニンにはどんな修復効果がある?
脳の松果体から分泌されるメラトニンは、自然な眠りへと導いてくれるホルモンです。
朝起きてから、約14〜16時間後に分泌され始め、夜間に分泌量のピークを迎えます。
その後、明け方にかけて徐々に少なくなり、分泌が止まります。
光によって分泌量が調整されるため、夜間に強い光を浴びると分泌量が抑えられ、寝つきにくくなります。
では、このメラトニンには、どんな効果があるのでしょうか?
《睡眠促進》
メラトニンには、体温を下げる効果があります。
そのため、メラトニンの分泌量が増えると、体温が下がっていくため、自然と眠くなっていきます。
《抗酸化作用》
メラトニン自体に抗酸化成分が含まれており、酸化による細胞の損傷を抑えてくれます。
また、活性酸素を除去してくれる酵素の働きをも促進してくれるので、ダブルで体の酸化を防いでくれます。
活性酸素は動脈硬化の原因にもなるので、生活習慣病の予防としても効果があるといえます。
《抗腫瘍効果》
数々の臨床試験の結果から、メラトニンには、癌治療での副作用を軽減し、生存率を高めてくれる効果があるといわれています。
例えば、「腫瘍増殖抑制作用」や「DNA修復作用」などがあり、それらの作用で癌細胞の増殖を抑えてくれます。
《細胞の修復作用》
成長ホルモンの分泌を助けて、損傷した細胞の修復を促進する働きがあります。
《脂質の代謝を促進》
脂質代謝に関連する酵素の働きを促進することで、血中コレステロールを下げる働きがあります。
そのため、質のよい睡眠が、肥満を防止する一助にもなります。
このように、メラトニンには、抗酸化作用や脂質の代謝促進など、女性にとっても嬉しい効果がたくさんあります。
もちろん美容面だけでなく、細胞の修復や生活習慣病の予防といった、体を健康に保つ上でも重要なホルモンです。
質のよい睡眠をとり、メラトニンの分泌量を増やすことが、美しく健康に生きていく上でとても重要なことの1つであるといえます。
「覚醒ホルモン」といわれるコルチゾールが持つ効果とは?
副腎皮質から分泌されるコルチゾールは、起床時の約3時間前から分泌量が増え始め、起床時に分泌がピークに達した後、夕方にかけて減少していきます。
そのため、「覚醒ホルモン」ともいわれます。
これは、コルチゾールの分泌で血糖値や血圧を上げ、起床の準備をするためです。
では、どんな効果を持つホルモンなのでしょうか?
《抗ストレス作用》
コルチゾールは「ストレスホルモン」とも呼ばれ、ストレスを感じると分泌されます。
コルチゾールが分泌されると、血圧が上昇し、ストレス源に対処するための「闘争状態」や「逃避状態」に、体を変化させます。
《抗炎症作用》
強い抗炎症作用を持つため、アレルギーを抑制する働きがあります。
《脂肪燃焼作用》
起きている時に、過剰にコルチゾールが分泌されると、脂肪の代謝を阻害してしまいます。
しかし、睡眠中は逆で、体に蓄えられた脂肪を分解し、エネルギーへと活用する働きがあります。
そのため、質のよい睡眠は、肥満防止にも役立つのです。
《血糖値上昇作用》
肝臓にあるグリコーゲンを分解し、ブドウ糖として血液中に放出することで、血糖値を上げる働きがあります。
このように、コルチゾールは、起きている時も睡眠中も分泌されるホルモンです。
1日を通して、炎症を抑制したり、血圧や血糖値を上昇させたりということを行い、体の修復や危機管理を行っているのです。
ストレスを感じて過剰に分泌されるとマイナス面が大きくなりますが、脳や体を健康に保つのに重要なホルモンでもあります。
質のよい睡眠をとることで、ストレスを軽減したり、睡眠中のコルチゾールの分泌量を増やすことが大事です。
睡眠不足で脳や体が受ける悪影響とは?
上記でご紹介したように、睡眠中の脳や体の修復には、3つのホルモンが深く関連しています。
しかし、睡眠不足が続いてしまうと、これらのホルモンもきちんと分泌されず、本来の役割を果たせなくなってしまいます。
では、きちんと睡眠がとれていないと、どのような悪影響が出てくるのでしょうか?
《免疫機能の低下》
免疫細胞は、睡眠中に活発に活動するものの1つです。
そのため、質のよい睡眠がとれていないと、免疫機能が低下し、風邪などをひきやすくなってしまいます。
《脳機能の低下》
睡眠をとることで脳を休息させていますが、睡眠不足になると、脳の休息がきちんととれず、脳機能が低下してしまいます。
そのため、集中力や思考力、判断力が鈍ってしまいます。
《アルツハイマーのリスク増大》
脳の老廃物を血液中に排出する役割を果たしているのが、脳脊髄液です。
これは睡眠中にしか働かないため、睡眠が足りないと、老廃物がきちんと排出されません。
そのため、アルツハイマー型認知症の原因となるアミロイドβなども脳に蓄積するため、そのリスクが増大してしまいます。
《生活習慣病のリスクが増大》
睡眠不足が続いてしまうと、疲労が蓄積してしまい、高血圧や動脈硬化を引き起こすリスクが高くなってしまいます。
その結果、心筋梗塞などになってしまう可能性が高くなるのです。
《精神が不安定になる》
睡眠が十分にとれていないと、「セロトニン」というホルモンの分泌が減ってしまいます。
このセロトニンは、怒りや興奮の感情を司さどっている「ノルアドレナリン」と、やる気や好奇心の感情を司さどっている「ドーパミン」の暴走を抑える働きがあります。
そのため、セロトニンが十分に分泌されないと、精神が不安定になり、イライラしたり落ち込みやすくなったりしてしまいます。
このように、睡眠が十分にとれていない日々が続くと、いろいろな悪影響が出てきてしまいます。
そうならないためにも、質のよい睡眠をとり、3つのホルモンがきちんと分泌されることが重要です。
脳や体の修復に必要な質のよい睡眠を上手にとる方法は?
上記で見てきたように、睡眠不足が続くと、脳や体の修復や疲労回復ができないなど、いろいろな悪影響が出てきてしまいます。
それらを防ぐためには、質のよい睡眠をとって、3つのホルモンを上手に分泌させることが重要なのです。
では、質のよい睡眠をとるにはどうすればよいのでしょうか?
その方法をご紹介していきましょう。
《適度な運動をする》
日中に適度な運動をすることで、体が疲れ、夜に自然な眠りにつくことができます。
運動の中でも、ウォーキングなどのリズム運動がおすすめです。
これは、リズム運動がメラトニンの分泌にも関係するからです。
夜間に分泌されるメラトニンは、日中に分泌されるセロトニンというホルモンから作られます。
つまり、日中にセロトニンが多く作られれば、夜に分泌されるメラトニンの量も増えるということです。
このセロトニンを増やす手段の1つが、ウォーキングなどのリズム運動です。
筋肉の緊張と弛緩を一定のリズムで刻んでいる時に、セロトニンは出やすいといわれています。
《食事とアルコールは眠る2〜3時間前に》
熟睡するには、食事は眠る2〜3時間前までには終わらせておくことが必要です。
食事をしてすぐに寝ようとすると、血糖値が高いままで眠りにつくことになります。
そうなると、インスリンが分泌され、低血糖になり、眠りが浅くなってしまう場合があります。
また、血糖値が高いまま眠っていると、成長ホルモンが分泌されづらく、疲労回復が十分にできない可能性があります。
そのため、血糖値を安定させるには、眠る2〜3時間前までには食事を終わらせておく必要があります。
また、アルコールも同じように、2〜3時間前までに終わらせておくようにしましょう。
アルコールは肝臓で分解されますが、その時に「アセトアルデヒド」というものが作られます。
これは交感神経を刺激してしまうため、神経が興奮してしまい、眠りが浅くなってしまいます。
《お風呂は眠る90分前に》
お風呂に入ると、深部体温が上昇します。
その後、約90分かけて入浴前の体温に下がると、その後はさらに少しずつ下がっていきます。
深部体温が下がると人は眠くなるので、入浴後90分たってから眠りにつくとよいでしょう。
《照明を調整》
上記でご紹介したように、メラトニンは暗くなると分泌が増えるホルモンです。
そのため、眠りに入る前から、ちょっと暗めの照明にかえてリラックスすれば、メラトニンの分泌も増えて、自然と眠りやすくなります。
《スマホやパソコンは眠る前に見ない》
スマホやパソコンから発せられるブルーライトを見てしまうと、脳は昼間と勘違いし、メラトニンの分泌をやめてしまいます。
その結果、なかなか寝つけないということになり、睡眠不足に陥ってしまうのです。
最近では、スマホやパソコンのブルーライトが原因で睡眠不足になる人が多くなっているので、気をつけましょう。
良質な睡眠で、健康的で快適な毎日を!
3つのホルモンが、脳や体の疲労回復や修復に効果的な働きをしていることをご紹介してきましたが、いかがでしたか?
傷ついた細胞を修復したり、体の酸化を防いだりと、いろいろな効果があることがわかりました。
ただ、これらの効果を発揮させるには、質のよい睡眠が重要です。
日常生活の習慣を見直し、時間は短くても質のよい睡眠をとるよう心がけましょう。
それにより、健康的で快適な毎日を過ごせるようになるかもしれませんよ。