昔から暑い夏でも温かい飲み物を飲むことは、健康に良いとされています。
自宅でインスタントラーメン・コーヒーなどを飲む時に、何気なく使っているポットですが、ただ「お湯を沸かして保温する」だけではなく、使う人の安全を考えた安全装置が設定されているのです。
安定した人気でユーザーも多い象印のポットにスポットをあて、組み込まれている安全装置とは何かを認識しておきましょう。
ポットの老舗、象印ポットの歴史を探る
安全装置のお話をする前に、まずは象印ポットの歴史について簡単にご紹介します。
現代のポットの先駆けとなる「魔法瓶」は、言葉を聞いてわかる人は少なくなってきていますが、昭和マンガの家庭の隅に登場する取っ手の付いた花柄の筒瓶が魔法瓶です。
中から魔法使いが出てくる物ではありません。
1967年(昭和42年)に大阪の魔法瓶メーカーが最初に発売し、それに続き象印や他社メーカーからも卓上の花柄魔法瓶が次々に発売されたそうです。
花柄魔法瓶の発売以前から魔法瓶は販売されており、当初はあまり普及しておらず、購入する人も少なかったのですが、日本で発明・発売されたインスタントラーメンブームに乗り、次第に魔法瓶が売れるようになってきたのです。
温かい飲み物はコンビニエンスストアでも買えるので、昨今でもインスタントラーメンを食べるためにポットを購入する人もいるのではないでしょうか。
その後、象印も時代のニーズの変化と共に魔法瓶からポットや電動ポットへ進化を遂げ、最近では電気代を抑えるハイブリットタイプのVE電気ポット(省エネタイ)や、高齢者向けの通信機内臓ポットなども発売されています。
象印の魔法瓶とエアーポット、電動ポットはどのように違うの?
魔法瓶は電気を使わない真空二重構造のガラス瓶で、95℃の熱湯が10時間後でも76℃以上保つことができる保温効果、保冷効果では4℃の冷水が10時間後でも7℃以下に保つことができます。
象印には、同じ魔法瓶でも割れないステンレス瓶もあります。
ガラス製・ステンレス製のそれぞれの製品は、魔法瓶だけでなくポットの内部に空気を入れ、その気圧差でお湯を出すエアーポットもあります。
現在、多く出回っている電動ポットは、沸かしたお湯を入れることもできますがポットでお湯を沸かして保温し、モーターポンプでお湯を出します。
モーターポンプもお湯を沸かす力も電気を使い、内部には発砲スチロールの断熱材が入っており、保温力に優れている真空魔法瓶を搭載して、さらに保温能力を上げています。
電気を使う加熱装置や熱湯を扱うのでもちろん、安全装置は組み込まれています。
納得!ポットについている安全装置
電源ケーブルと本体の接続部分に磁石式接続器(マグネットプラグ)をつけることにより、電源ケーブルに足などを引掛けてしまった時に磁石式接続器が外れて、ポットの転倒を防ぐと同時に火災を予防します。
また、象印をはじめ、ほとんどのポットに給湯停止装置がついています。
これは、子供のいたずらや操作ボタンを間違って押してしまった時の事故予防で、スイッチ・電子回路により給湯を不可能にします。
電子回路を搭載しているタイプは、一定時間に給湯をしないと自動的に給湯しない「自動給湯装置」を内蔵しているのです。
サーミスタ(温度の変化により抵抗値が変化する電子部品)の故障や空焚きによる過熱の保護装置には、温度ヒューズを内蔵して保護をしています。
ポットの操作ボタンの色は、1970年後半までは信号機と同じ青色が給湯・赤色がロックボタンでしたが、やけどの危険性があるので象印では赤色が給湯・青色をロックボタンに変更したのです。
様々な場面を想定し、必要な安全装置がポットには内蔵されています。
なぜポットに安全装置が必要になったのか?
電気ケトルや電動ポットの普及により、家庭内等での事故が多くなってきました。
ポットの転倒や落下により、幼い子供が全身にやけどを負ってしまうような事故が多発していることを受け止め、一般財団法人日本品質保証機構から事故防止のためにSマーク認証の追加基準が2013年に制定されたのです。
これは事故を未然防止することを目的とし、転倒流出試験を行った際に流出水量値が50ML以下にすることに決められ、象印をはじめ各メーカーは基準をクリアした商品を発売しています。
象印のポットには、傾けた時の湯もれを抑える「傾斜湯もれ防止構造」や、転倒時の湯もれを抑える「転倒湯もれ防止構造」、注がない時には約10秒後にロックされる「自動給湯ロック」などの機能が搭載されています。
また、やけど事故と同様に多い空焚きによる火災を防止するための「マイコン空焚き防止(ヒーター自動オフ)」は、空焚きを感知して自動的に電源をオフにする機能です。
このように、ポットにはしっかりとした安全装置が備わっており、高い安全性が求められていることがわかります。
身近にある安全装置の数々
私たちの生活は、様々な安全装置によって守られています。
例えば、家の中にあるブレーカーは一定以上の電流が流れた時に回路を遮断して火災を防止し、乾電池等には一定以上の圧力を逃がすことにより容器の破裂防止をする機能があります。
また、電気器具の中にある電力ヒューズには、一定以上の電流が流れた時に焼き切れて火災や故障拡大を防止します。
マンションのエレベーターには、扉が閉まる途中で何かに触れた時に、自動的に扉を開ける戸挟み検知装置がついています。
その他に電車など車両についているデッドマンブレーキは、運転手の異常や不在による事故防止に作動し、工事現場のクレーンのモーメントリミッタと呼ばれる装置には、過重による事故を防ぐために不安定な方向への動きを規制する働きをもっています。
また、刑事ドラマで耳にする銃の安全装置(セイフティ)は、暴発防止に役立っています。
このように安全装置は、ヒューマンエラーや使用中の器具・機械に起こりうる事故を未然に防ぐ役割をもっています。
象印や各メーカーではポットだけでなく、その他の生活家電を安全に使用できるように日夜努力を続けています。
便利で安心!象印ポットの新機能
象印では、問題視されている電気ケトルにも安全装置の配慮がされていて、「転倒湯もれ防止」や「高温の蒸気が出ない設計」、「給湯レバーを放すと自動的にロックがかかる機能」、「電気ケトル本体が熱くなりにくい設計」などが施されています。
また、電動ポット同様にマイコンが取り込まれているので、空焚きを検知し自動で電源を切ったり、センサーが作動しなかった場合に湯沸かし開始約9分後に電源が切れる仕組みの商品もあります。
使いやすさや省エネに配慮されている機能も多く、電気と魔法瓶の2つの機能でしっかり保温できるハイブリット保温、2時間操作がなければ保温ヒーターが切れて省エネモードになり、消費電力を抑えることができます。
ご高齢の方向けに発売されたiポットには、ポットの内部にデータ通信専用の無線通信機が内蔵されているので、離れて暮らす家族がおじいちゃんおばあちゃんの生活をそっと見守ることができます。
1961年(昭和36年)に社名とブランドを合わせた社名変更を行った「象印マホービン株式会社」は、「生活者の視点に立ち、生活実感を大切に考える。そして心から喜ばれる商品開発を進める。」ということを象印のモノづくりも原点にしているそうです。
安全装置に守られている私たちの生活
日頃、何気なく使っているポットですが、様々な危険を想定、過去の事故を繰り返さないように設計されています。
「どうしたら事故を避けることができるのか」を頭の隅におき、安全装置だけに頼らず正しい使い方を心掛けて、便利で快適な生活を楽しみたいものです。
2008年(平成20年)に90周年を迎えた象印マホービン株式会社が設立したまほうびん記念館では、魔法瓶・ポットの歴史や安全装置などの技術を見ることができます。
一度、足を運んでみるのもいいかもしれません。